建築確認申請・検査をめぐって、行政の役割が問われています。選挙期間中は法令の規制があり、更新できませんでした。記者会見を行った文書を発表します。
「官から民へ」が住民に何をもたらすか 構造計画書偽造事件に関連して
― 安全、安心と町並みを守るのは地方自治体の役割 ―
2005年11月24日
姫野 浄
◎なぜこのような事態が起こったのか
千葉県市川市の「姉歯建築設計事務所」がマンションなどの建物の耐震性を示す「構造計画書」を偽造していたことが発覚し、「指定確認検査機関」(以下、民間機関)の確認・検査体制がずさんで、住民の安全を脅かす重大な問題に発展しています。大阪市内でも、その設計事務所が構造計算した1件について、その構造計画書の再審査が行われているとのことです。今回の偽造事件が起した社会的・経済的影響は非常に大きく、単に一設計事務所のモラルにとどまるものではありません。
この背景には「規制緩和三カ年計画」に基づいて1998年に建築基準法が改悪され(自民、公明、民主、社民が賛成、共産党は反対)、自治体の建築主事が行っていた建築確認と検査を民間に「開放」したことがあげられます。
日本の建築行政職員の数は人口10万人当り5.8人で、アメリカの25.7人、オーストラリアの23.0人と比較して十分な実施体制を確保できず、「効率的な執行体制を創出する」として導入されたのがこの「指定確認検査機関制度」という「民間開放策」でした。このあり方が現在大きく問われる局面を迎えています。
◎大阪市ではどのようなことが起こっているのか
現在、大阪市内には26の民間機関があり、それらへの信頼感が揺らぐという事態に至っています。1999年度ではほぼ100%だった行政による確認申請件数が、2004年度にはわずかに3%にまでその業務量が激減しました。堺市(47.6%、2005年)や東大阪市(53.4%、同左年)と比べても大阪市の民間開放ぶりの異常さが伺えます。それに伴って、大阪市住宅局建築指導部審査課は指導課審査係となり、人員も半減させられました。しかしながら、民間機関への申請前に、実質的な審査はしないものの確認に必要な情報提供を行うのはこの係などの市職員であり、民間機関のための手伝いをしなければならない現状があり、減員された市職員はその対応に追われ、審査係では「本業」の審査業務を合間に行わざるを得ません。これでは、本来の確認業務から遠ざかるばかりです。
審査業務に携わることができなくなったことで、必要な知識や経験の蓄積が困難になり、これまで建築指導行政を担ってきたベテラン職員の定年などによる減少のため、民間の設計事務所からの事前相談に十分応じきれないケースや、民間機関に対する法の解釈について判断できないケースが想定され、今後の大阪市の建築行政に対する信頼すらも大きく揺らぎかねない事態が考えられます。
◎指定確認検査機関(民間機関)はどのような状況か
大阪府下26ある民間機関のうち大阪市内には18が集中。年間で計約1万件の業務を行っています。民間機関の間での競争が熾烈になり、その結果確認の「効率化」が求められ、確認・検査の手数料の値下げ、確認審査機関の短縮、検査済証や中間検査合格証の早期発行など、十分な書類審査や必要な書類の点検が行われていない可能性が否定できません。検査後ほとんど時間をかけず合格証をなどを発行する民間機関がある一方、体制を充実させ検査においても書類不備や未報告を理由に検査済証の交付に時間を書ける民間機関もあるなど、実態はまちまちです。
◎民間機関による被害は誰が責任を負うのか
今年の6月24日に最高裁が重要な判断を下しました。横浜市内に大規模分譲マンションの建築が計画され、ある民間機関が建築確認関係規定に適合するとして確認を下ろしました。これに対して周辺住民が「マンション建設で生命や身体の安全が脅かされる」と同民間機関を被告として確認処分の取消訴訟を提訴しました。提訴中に完了検査を終えてしまったことから、原告である住民は確認の遺法を原因とする損害賠償を横浜市に求めました。最高裁は「民間機関の事務は市が責任を負う」との判断を下したのです。これにより、確認の違法性が認められたときには自治体が賠償責任を負うという判例が確立したことになります。
◎地方自治体に求められることは何か
姉歯建築設計事務所が起した事件に関して、熟知した職員が確保されていたならば、構造計算書の不備や同規模の建築物と比較して、鉄筋量が少なすぎるなど構造関係の図面の異常さに気づいていたのではないか、専門家からも指摘されているところです。「小さな政府」「民でできるものは民で」と、地方自治体の役割がないがしろにされ、市場原理があたかも万能であるかのよう主張が流布されていることは看過できません。JR西日本の尼崎での痛ましい事故や雪印の集団食中毒も、利用者や住民の安全に関する根本部分が「民間開放」された結果もたらされたものと言わざるを得ません。
さらに、こうした民間開放が、行政の持つ「総合性」を失わせるという問題もあります。平野区の平野郷は伝統的な町家・町並みが住民の手で残されています。大阪市は平野郷地区をHOPEゾーンとして指定し、「まちなみ修景補助事業」を行っています。この平野郷の中に20年ぶりに12階建ての高層マンションの建築確認申請が出されました。民間開放されたことにより、行政内部の事前調整や事業主への行政指導ができない事態になりました。建設予定地は周辺が低層住宅のため、景観が台無しになりまねません。一方で町並み保存を奨励しておきながら、一方でそれを損ねる行政が行われているのです。
行政が住民の命と安全、くらしをどう守っていくのか、今ほど鋭く問われている時はないでしょう。
その上で、次の見解を表明します。
(1) 大阪市の建築物で、偽造された構造計算書がなかったのか、検証する必要があります。
(2) 職員の大幅削減は、確認事務における安全性を脅かすことは明白です。ムダな大規模開発や乱脈不公正な同和事業にかかる職員定数は全面的に削減し、建築確認など住民の安全に関わる部門を増員する必要があります。
(3) 民間機関が大半の事務を行う現状について、その問題点を検証しながら、改善していくことが求められます。
(4) 安全・安心に関わる地方自治体の業務である、地下鉄、市バス、水道事業の民営化は認められません。
最近のコメント